獣医師・動物病院について
獣医師の仕事
獣医師の仕事は
獣医師の仕事は以下の5つに分類することができる。
- 小動物臨床:家庭の飼育動物に対して診療を行う(動物病院の先生)
- 公務員:保健所や税関などで働く
- 産業動物臨床:牛や馬など産業動物に対して診療を行う
- その他(教員・研究職など):大学の教員・研究や新薬開発などに携わる
- 獣医事に従事しない:一般企業で働くなど
平成26年度時点で、獣医師の数は約39,100人(免許保有者数)。
小動物臨床分野は約15,200人(39%)、公務員は約9,500人(24%)、
産業動物診療分野は約4,300(11%)、その他は約5,600人(14%)、
獣医師として活動しないものは約4,600人(12%)である。
獣医師=動物病院の先生
そんなイメージが強いが、こうしてデータを見てみると、
動物病院の先生(小動物診療)の割合が最も高いが、
半分以上の獣医師は動物病院以外で働いていることが分かる。
続いて、
最も多くの獣医師が働いている動物病院に関するデータを見てみる。
動物病院市場
動物病院市場は飽和状態にあると言われている。
顧客であるペットの数に対して、動物病院の数が明らかに多い現状なのだ。
ペットの数は減少傾向にあるのに対して、動物病院の数は増加傾向にあるという非常に歪な市場環境である。
ペットの数の減少と言っても、
上記グラフを見ると、ペットの減少=犬の減少 であることが分かる。
犬の数が減少しているのは、
人口が減少しているため、仕方ない部分が大きいと思う。
上記グラフからも、
犬の数と人口には大きな相関関係があることが分かる。
近年は猫ブームと言われているが、
実際には猫の数は増えておらず、犬の減少により、相対的に猫の数が増えているだけである。
さらに詳細を見ると、
犬の場合、飼育数、飼育世帯数ともに減少しているのに対して、
猫は、飼育数が微増、飼育世帯数は横ばいであることが分かる。
つまり、
猫の飼育者が増えているわけではなく、
既に猫を飼育している人が、2頭目、3頭目の猫を飼育しているのだ。
ちなみに、
ペットを飼育している世帯あたりの犬と猫の平均飼育頭数は、
犬が 1.25頭 で、猫が 1.78頭 である。
犬よりも猫の方が、
多頭飼いをされやすい傾向にあることが分かる。
動物病院にとっては、
ペットの数よりも、ペットを飼育している世帯数の方が気になる数ではないだろうか。
動物病院の患者はペットであることに違いはないが、
動物病院に連れてくる人は、飼い主である。
ペットの数が増えても、動物病院にペットを連れていく飼い主の数が増えなければ、
動物病院の収入は向上しないからだ。
上記グラフからも、
動物病院市場がいかに飽和状態にあるかが分かる。
年々市場規模(世帯数、ペット数)が減少しているのである。
これだけ、市場が小さくなってしまうと、
動物病院の収入を維持していくためには、医療単価を上げるしかない。
それでは、金額で見た市場規模はどのようになっているのであろうか。
猫はともかく、
犬の医療支出額は明らかに年々高くなっている。
※これは、アニコムの保険契約者の平均支出額なので、全飼主の平均支出額ではない。
全飼主の平均支出額は上記よりも大幅に少ないと思われる。
動物病院市場が飽和状態にあることは歴然だが、
結局のところ、動物病院の経営環境は厳しくなっているのだろうか?
売上=顧客数×単価
という図式に当てはめてみると、
顧客数は減少、単価は増加している。
恐らく、売上は増加しているのであろう。
この背景には、ペット保険の加入率の増加に加えて、獣医療の高度化により、診療単価が向上してるためであると考えられる。
鶏と卵ではないが、
ペット保険加入率が増加したから、医療の高度化が進んだのか、
医療の高度化が進んだから、ペット保険の加入率が増加したのかは、不明。
※ワクチン、狂犬病などの単価は減少しているが、高度医療によるMRI・CT検査の導入により、トータルの診察単価が増加しているのである。
では、利益はどうだろう。
利益=売上ー費用
この図式に当てはめて考えると、
売上は増加(仮説)、費用も増加(仮説)している。
売上に関しては先ほど述べた通りであるが、費用に関しても、
医療の高度化により、設備投資額が年々増加していることが推測できる。
(筆者が何人かの先生にお話を伺ったが、設備投資額は年々高くなっていると口を揃えていた。)
筆者の推測では、
利益は減少傾向にあると考えられる。
診察単価の向上よりも費用の増加影響の方が大きいと思うからである。
家賃・リース(設備投資)・人件費…。
リース費用だけ考えても、診療単価だけで賄うことは不可能であると思う。
例えばエコーの機械をリースした場合を考える。
↑こんなやつである。
筆者が先生にお話を伺ったら、
四年間のリース契約で、約400万円ほどの費用がかかるらしい。
年間で100万円の費用が発生する。
100万÷365日=2,739
つまり、1日で2,739円の費用が発生する計算である。
エコー検査の料金はどれくらいですかね?
個人的な感覚だと2000円~5000円くらいが相場のような気がする。
この料金感なら、
何とかもとは取れそうに思えるか。
しかし、考えてみよう。
エコー検査て、そんなに頻繁に使わない。
毎日エコー検査が必要な患者さんなんて来ない。
動物病院で用いる機器は、使用頻度が少なく、ペイしにくいものが多い
これが、利益減少の大きな原因だと思われる。
しかし、機器が揃っていないと、患者さんからは質の低い動物病院だと判断されてしまい、
顧客獲得数が減少してしまうだろう。
動物病院の経営環境は厳しいのだ。
動物病院の経営状況
それでは、実際に動物病院の売上を数字で見てみよう。
動物病院の平均売上高は、
淀川中央動物病院の院長である菅木悠二氏の卓話が掲載されている。
内容を以下のグラフにまとめてみた。
※該当URL
上記グラフをみると、
約6割の動物病院が、1000万円~5000万円のレンジにおさまることが分かる。
さらに、菅木先生のコメントに、
平均売上は3000万円ほどであると書いてあり、
そのうちの半分が原価であることから、
さらに、販売費および一般管理費が、さらに半分とのことで、
営業利益は750万円ということになる。
これは正直厳しい数字であると思う。
世間では、
獣医=儲かる そんなイメージがあると思う。
しかし、実際には、全然儲かっていないのが実情であるのだ。
獣医師になるためには、
6年間大学で過ごして、国家試験に合格しなければならない。
時間・金額のコストを考えても、割のいいものではないと思う。
今までの話は、
開業医についての話である。
では、勤務医の実情はどうなっているのだろうか。
開業医でも儲けることが難しいことは歴然であるにも関わらず、
なぜ、獣医師は開業を目指すのだろうか。
市場が縮小しているのに、なぜ動物病院の数は増加しているのだろうか。
答えは、
勤務医では食べていけない からである。
勤務医では食べていけないから、開業医になることを目指しているのだ。
実際に、勤務医の労働環境は厳しいと思う。
初任給は約22~24万円。
労働時間は、早いと7時~0時ほど。(筆者がインタビューして伺った)
そこらへんのブラック企業なんて、かわいく見えてしまうレベルではないか…。
あのレベルの企業は、給料が高いのである。
そこが動物病院との大きな違いである。
※筆者は、労働時間が長くても残業代がしっかりと支給されるならば、それはブラック企業とは言えないというスタンスである。
つまり、勤務医という職種は、圧倒的にブラックな環境なのである。
これは、イギリスの職業別自殺者の統計データに関する記事である。
なんと、獣医師の自殺率は、他の職業の平均よりも4倍であり、人間の医師や歯医者より2倍も高かったというのである。
英国でのデータではあるが、日本でも同じことが言えるのではないだろうか…。
つまり、獣医師という仕事は、
開業医であれ勤務医であれ、最悪の職場環境であることが分かる。
もちろん、お金だけが仕事の物差しではないと思う。
筆者も莫大な給料よりも、夢を選択した者の一人である…。
本当にペット・動物のことを愛しており、
獣医師として少しでも、動物の幸せのために貢献したい
そんな気持ちがないと、続けていくのが厳しい仕事であると思う。
次回は、
データではなく、日本の社会と獣医師の本音という部分に、
フォーカスした記事を書いてみたいと思う。